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文才のない人間の書いたほぼ映画の感想のみの日記


by 44gyu
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ドッグヴィル

公式サイト

ネタバレ

殺風景なセットの町から場面は移ることなく、描いているのは重い人間模様のみで、しかも3時間の長篇。一見退屈そうだがかなりおもしろく見られた。舞台風のセットとチャプターの切れ方も、映画ならではの映像と編集で、映画として違和感なく、斬新な効果になっていた。

アメリカ批判の映画だそうだが、まずドッグヴィル(犬の町)の普遍性に衝撃を受けた。
ドッグヴィルは日本の学校や小さな集落とも重なって見える。壁がなく家の中が丸見えのセットは、互いを知り尽くしたご近所が連なる田舎の集落を、うまくあらわしているように思えた。大声を出すとすぐ周囲に丸聞こえなので、皆ボソボソしゃべる。
外れればそこに住めなくなるため一人も輪を外れた行動ができず、よそ者を受け入れることは輪を外れることになるので受け入れない。その窮屈さは学校の教室のようだった。互いを牽制しあい変化を受け付けない集団の中には、気心の知れた安らかさはあるが、ある程度愚昧であるか愚昧にならなければやっていけないところもある。そんなもどかしい辛さを観ていて感じた。また、グレースに首枷をかけつつ体をいたわるようなおぞましい偽善性も、そこまで酷くはないが日常にありえる光景だ。
見た目はお芝居だが、表現されている社会は気持ち悪いくらいリアルだった。

グレースが住人達に受ける虐待が酷くなっていく描写は、観るに耐えられなくなるほど残酷。辛過ぎるので、救いを求めてこうなれば良いなあと思っていたラストに実際なった時は、読みが当たったと思うよりもホッとした。スカッとした。でも本当はグレースは死なねばならなかったのかもしれない。なぜなら最後のグレースとグレース父との会話は、神の子キリストと神の会話だと思えたから。グレースはたびたびキリストの姿と重なる。
グレースが受けた仕打ちに対して、自分の部下達を使って報復するように勧めるギャングの父が言う。
父「お前は彼等に同情するから裁きが下せん ”貧しい子供時代”とか”殺人は必ずしも殺人ではない”とか理屈をコネる。”責めるべきは環境だ”と。人殺しも強姦魔もお前の説では被害者だ。だが私にとって奴等”犬”がゲロを喰わんようにするにはムチしかない」
このセリフは世界の流れに反して死刑制度を続ける(日本もそうだが)アメリカの言い分を揶揄しているようにも聞こえるが、人間の創造主で、人間を罰するために町を焼き払い皆殺しを行うような、強権を行使する恐ろしい神の言い分のようにも聞こえる。
そしてグレースは、住人を犬呼ばわりする父の言葉を訂正することなく、同様に人々を犬と呼び言葉を続ける。
「犬は本能に従ってるだけ、なぜ許してやれないの?」
無垢で優しい言葉のように聴こえるが、下等な者に対する上位の者の哀れみである。処刑の際に「父よ、彼らをおゆるしください。自分が何をしているのか知らないのです。」と言ったキリストと重なる。
グレースは父のごう慢さに怒って家出したと言いながら、そんな自分のごう慢さにはまったく気付かず、彼等を許し、さらに慈愛を与えると言う。ここで彼等を許していれば、グレースはキリストそのものだったが、そうではないところに映画性があったと思う。月明かりが村人の顔を照らし、醜さをあらわにするや、グレースは、彼らと同じ、厳しい環境で生きる立場に立てば、自分も同じようにするだろうと思っていた考えが変わる。考えが変わったグレースの表情が一瞬にして冷徹になる様子は気持ち良いほど象徴的だ。
それからのグレースの報復は、その時はスカッとするが、後で考えてみればやりすぎだ。親の目の前で次々子供を殺すなど残酷の極みである。そこまでする必要ななかった。そこがグレースがアメリカの比喩たるゆえんなのかもしれない。権力者グレースにとって、許すも殺すも胸三寸。グレースの強大な権力の前に住人は逆らうすべもない。

キリストとグレースが重なるのは、最近の宗教右派が台頭するアメリカを表したからだろう。
保守化するアメリカでは、個人よりも全体が重んじられ、よそ者や少数意見を排斥する傾向が今後ますます強くなっていくと思われる。アメリカのポチである日本にも同様の傾向が顕著に現れており、世の中の鬱屈感は増すばかりだ。
本来人は善だったのではなく、グレースは隠されていた人間の残忍さを引き出したにすぎない。ドッグヴィルの絶望的な醜悪さはいつまでも印象に残り、救いようのない私達の世界の現実を見せつけられ、暗たんたる気持ちになる。それをスカッとさせる悪人皆殺しも、権力を持った者のごう慢だったことが明らかになり、自分の中の危うい人間性に気付かされた。

あ〜〜〜それでも生きてるんだから、良いトコだってあるよね?良いトコがあると信じてないと、とてもじゃないが生きていけないと痛感した。全否定されて落ち込んでしまい、他の映画に救いを求めたくなった。
by 44gyu | 2005-02-27 23:05 | ★★★★